長岡市医師会たより No.258 2001.9

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もくじ
 表紙絵 「BON Jour!」       内田 俊夫(内田医院)
 「我が長岡中央綜合病院外科」    清水 武昭(長岡中央綜合病院)
 「自己紹介」            青柳 竜治(立川メディカルセンター中越診療所)
 「在宅診療の体験報告〜其の五」   板倉 亨通(北長岡診療所)
 「新会館建設事業の動向〜その1」  会館建設委員会
 「用心棒のアヒル」         郡司 哲己(長岡中央綜合病院)

BON JOUR !  内田俊夫(内田医院)
我が長岡中央綜合病院外科  清水 武昭(長岡中央綜合病院)  

 長岡は空気がおいしい、本当においしい。空は青く澄んで、このどえらい蒸し暑さを除けば。いやクーラーの利いた部屋から町並みを見ると、三方を山に囲まれ、北だけが空いている、この夏でも妙に北国だなーと感じさせるこの長岡の地の、三度日の生活をこの一月より清水は始めた。秋田、水戸などにも生活し発見したが、人間にとっては人口20万前後の都市は生活もしやすく、皆人間味があって、適当にドラマもあり、魅力のある都市なのだろうとつくづく感じいっている。

 我が長岡中央綜合病院の外科医者の何度目かの全取替があり、これだけの規模の病院の外科としては珍しいことではないかとも思ったが、意外に気にもせず、喜び勇んで外科の責任者としてやってきた。雪の燦々と降る中引っ越しを済ませ、正月より出勤するとそこには目の澄んだ昨年来たばかりの若者が三人いた。やるぞーとも思ったが、一人空回りするとまるでピエロだ、ピエロでも良いかとも思ったが、日の澄んだ若者の目を信じることとした。2年がかりで普通の外科に戻そう、evidence based medicine(EBM)の外科をやろうと、患者本位の外科をゆっくりやろうと思った。落ち着いて周囲を見回してみると、改めて、看護婦さんはすごいと思った。間違ったことでも、bestでなくbetterであっても、十年常勤医に指導されると、心の底からbestと思い、私に今までこのようだったと強制してくる。これは世界中でも長岡中央綜合病院だけしかやっていない、根拠のない、EBMに基づいていないと言っても、うちではこの十数年問題がなかったといわれると、相手は優秀ではあるが思いこみがすぎるようなので(こんなにこの病院を愛する、長岡中央綜合病院はすばらしい、世界一なのだ、と信じている看護婦さんは、大切にしなければならないと思った)、これはじっくり変えないと上手くいかないと思った。二年、いやもっと時間がかかるかもしれない。

 来られた患者さんはみんな診る、必要があれば積極的に手術する、と普通の外科、当たり前の外科を目指し、こつこつとこの半年やってきた。病診連携にも心がけ、紹介のあった患者さんは手術が終わり落ち着いた状態になれば、術後の経過観察は可能な限り前医にお願いする事とした。全麻の手術も週に10例前後となり、何年ぶりかで、60床の外科病棟も何度か滴床になった。この4月新たに新潟大学より2名の外科医者を増員していただき、久々に総勢6名の外科医の陣容となった。清水武昭(昭和43年卒)、河内保之(平成3年卒)、山本 智(平成4年卒)、宮原和弘(平成7年卒)、岩谷 昭(平成7年卒)、高野可赴(平成12年卒)の6人だ。清水は昨年まで信楽園病院にいて、肝胆膵の外科を中心に、透析患者の消化器疾患、腎移植、甲状腺外科、そして胃癌、大腸癌を手術してきた。肝臓癌、膵痛、肝門部胆管癌を数多く手がけ、透析を利用した血液浄化法を用い、重症膵炎、重症胆道感染症も数多く治療した。河内は、肝胆膵の外科を中心に大学で研究を重ねるかたわら、食道癌、胃癌、大腸癌の臨床をも身につけ、この4月に我が病院に就職してもらった。手術の卓越した、患者に優しい若者である。当外科の中心的存在でもある。山本は、大腸癌を長く研究し、数年前より、大学で肝臓移植を研究している。昨年の10月より、当院で仕事をしている。穏和な協調性のある性格と、手術のねちっこさで、周囲の信頼を得ている。宮原は乳癌が専門であるが、胃癌、大腸癌もこなしている。少々太り気味であるが、意外と体力があり、長時間の手術をこなしている。岩谷は大腸癌が専門であるが、手術の細やかさと性格のまじめさで、活躍している。高野は卒後2年目だが、朝7時から、夜中まで、月月火水木金金で患者の診療に、手術に活躍している。みんな酒好きで、運動も野球、サッカー、バスケット、登山と多彩、また遊び好きでもあります。

 長岡赤十字病院の外科、内科、立川綜合病院の外科、内科の先生方、長岡市医師会の先生方、そして何よりも当病院の消化器内科、放射線科、麻酔科の医師に支えられながら、患者本位の医療を何とかこなしていると最近では自負している。乳癌を中心とした検診活動、胃痩腸痩の管理、高カロリー輸液の管理を通した在宅医療の協力、そして開放病棟を設置、医師会の先生方にも手術していただこうと計画している。厚生連の中核病院のみでなく中越地区の中核病院としての役割を果たすべく努力している。近々外科無料相談室を設け、セカンドオピニオンや手術した方がよいのかどうか、術後再発の治療などについて患者や家族よりの質問に答えたいと計画してもいる。

 長岡の花火が大々的にあがった。こんなに派手ではなくてもいい、地道な、きめ細かい外科をやっていきたい、そう考えている。今後ともよろしくお願いします。

 

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自己紹介  青柳 竜治(立川メディカルセンター中越診療所)

 青柳と申します。本年4月に中越診療所の所長に任命されました。専門は腎臓内科です。よろしくお願いします。

 中越診療所は立川メディカルセンターに属しています。立川綜合病院の一軒となりに位置し、血液透析を専門に行う透析施設です。現在145名の患者さんが透析をうけており、長岡地区では最も大きな透析センターの一つです。

 私は、長岡市袋町生まれで、現在42歳です。長岡高校を卒業し愛知医科大学に入学。昭和59年に同校を卒業後、1年目は新潟大学附属病院で内科研修をしました。また、2年目は長岡中央綜合病院で内科研修をさせていただきました。入局した新潟大学第2内科では腎不全班に属し、主に透析治療について勉強しました。後期出張として秋田組合総合病院、小千谷総合病院などに勤務した後、平成10年7月に立川綜合病院に赴任しました。

 家族構成は妻、長女(7才)、二女(4才)、長男(2才)、の5人です。我が家では子供の風呂入れは父親の役目ですが、子供3人と自分の合計4人分の洗髪をすると自分はぐったりしてしまうことがあります。子供がまだまだ幼いので妻はなかなか大変です。趣味は海・渓流釣り、ゴルフ、スキー、サッカー観戦などですが、最近は、釣りに行く時間が取れず残念に思っています。

 中越診療所のほかに立川病院の業務を兼務しています。腎外来と腎疾患患者の入院を担当していますので腎臓病患者さんの紹介は立川病院の腎臓内科青柳までお願いします(中越診療所には入院ベッドがなく、一般診療も行っていません)。

 研修医時代にお世話になった先輩が大勢いる長岡に戻ることができ、また、自分の生まれ育った地で医療ができることを大変うれしく思っています。今後もお世話になる機会が多いと思いますが、ご指導をよろしくお願いします。

 

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在宅診療の体験報告(其の五)  板倉 亨通(北長岡診療所)

 この項では、鍼治療に対する外国の評価や考え方について述べてみたいと思います。

 其の前に筆者の体験からの見方をお話したいと思います。在宅診療に試用した良導絡治療については、30年程前より、半信半疑で観察、追試を続けて来ましたが、最近になり有用な科学的手段である事を実感する様になりました。

 中国や日本の歴史の中で生き続けて来た鍼灸の経穴、経絡を中谷義雄氏が京都大学生理学教室で良導絡測定用電流計を作成し、電気生理学的に研究し直して、経絡に似た良導絡系と、経穴に似た良導点を見出し、その生理作用とそれに基く治療法を西洋医学的立場から解明し整理し良導絡治療法を体系づけました。それらの詳細は中谷義雄著「良導絡自律神経調整療法」(良導絡研究所発行)に譲りますが、簡単に言えば、患者の患部の周辺で12Vの電圧で電流(μA単位)の多く流れる点を探し、其の点に電流(μA単位)を流せば、ある程度の治療効果、生理作用を期待出来るという簡単明瞭な現象に基いた体系ですが其の利用価値が大きいので却って信用され難い点がある様です。この著書を読むと、古来の鍼の経穴や経絡を全く知らなくても支障は無い体系と考えられます。

 この後に続いて、大阪医科大学麻酔科教授の兵頭正義氏が「痛みの新しい治療法」(中外医学社)を著し、その中で、東西の医学的錬治療法の比較検討や良導絡治療法も述べて居り、鍼治療について古今東西の文献のダイジエストが興味深く知る事が出来ます。其の後、同教授は無鍼良導絡低周波治療法とも言うべきSSP治療法を開発し、麻酔医の立場、ペインクリニックの立場、鍼麻酔による手術の体験等、通電治療、通電麻酔に拠る鏡痛効果や生理学的効果を古今東西にわたり広範囲に研究し、その効果と適応症を「SSP療法」(同研究会発行)に纏めています。簡単に同書の目次の抜粋を下記に列記しますが、詳細について興味のある方は是非同書をお読み下さい。

SSP療法の治療効果と適応症

1.治療効果からみた適応症

(1)鎮痛効果

(2)麻酔効果

(3)循環改善効果

(4)転調効果(調整効果)

(5)抗腫脹効果(消炎効果)

(6)麻痺改善効果

(7)消化管安定効果

(8)仮骨形成促進効果

(9)造血効果

(10)暗示効果

2.各科領域におけるSSP療法の治療効果

(1)ペインクリニックでの応用

(2)整形外科での応用

(3)産科婦人科での応用

(4)内科での応用

(5)小児科での応用

(6)歯科口腔外科での応用

(7)耳鼻咽喉科での応用

(8)眼科での応用

 以上多岐に亘り、多くの業績を挙げています。筆者も自己の診療範囲でSSP治療を患者に使用し、同様の感触を得ていますが同書にも在る様に、30%位の効果の差を有鍼良導絡治療法とSSP療法の間に認めるのは止むを得ない事と思います。

 次に鍼治療の諸外国の情勢については、偶々、日本医事新報2001年9月1日号に中沢弘氏(アメリカ鍼認定医学会会長)の「アメリカ鍼灸医療事情」が載っています。NIH(米国国立衛生研究所−研究機関として、医学、医療政策への提言をする目的で設立された)が1997年11月の鍼治療への合意声明があり、NIHを通じて研究費が支給され、2002年に大学、研究所の中間報告が期待されるとの事です。また大多数の保険が鍼治療の支払いを認めているとの事です。

 NIH1997年の合意発表の当面の結論は

(1)術後の薬物療法時の吐き気、歯科の術後痛には有効

(2)薬物中毒、脳卒中のリハビリ、線維性筋痛、変形性関節炎、腰痛、手根管症候群、喘息には有効性があるが科学的データが少ない

(3)鍼導入は初期段階であるが社会的に機は熟している。鍼には将来の医療に組み入れて活用し、其の生理学や臨床応用を研究する価値があることを示す証拠は十分ある。

(4)最後にラムゼイ博士は西洋医学のなかに信頼出来る治療選択の一つとして鍼治療を受け入れるかどうかは、更に綿密な研究を要するとのことです。

 NIHを通じて研究費を出し研究機関の報告を待ったり、保険が有効な事が優先したりする手順は流石にアメリカの良い所だと感心しました。そして英国では鍼こそ一般医師が学ぶべき代替医療だとするイギリス医師会の発表(2000年)があったと言う事です。

 日本では消炎鎮痛処置(手技または器具による)35点が請求可能ですが、良導絡治療法は手技が簡単であり、また使用器具も廉価なのに普及しないのは「按摩、鍼、灸の真似が出来るものか」という明治時代からの差別観念があるからに他ならない様に思います。筆者の同級生にも「漢方なんて薮医者の真似が出来るか」と言う人がいます。

 話が飛びますが、筆者が漢方を使い始めたのは、東京から転任して来た人の健康診断でGOT、GPTが200〜300を越すので経過を聞いたところ、東京の大病院で貴方はそれが正常値だと言われたと主張する患者に出会い小柴胡湯と桂枝夜苓丸を併用投与し二週間後に採血、検査したところ、同値が殆ど正常値に下がっていた事に驚いてから、漢方に関心を持ち始めました。(オーストラリア抗原が話題になつた頃と記憶しています)この良導絡治療についても、この報告の「其の二」の「症例1」に述べた患者の疼痛の良導絡低周波治療をしているうちに構音障害や書字障害が消失して、患者が突然話を始めて驚いてから良導絡治療法を本格的に見直した次第です。良導絡治療の生理効果はかなり広汎であり、筋萎縮性側索硬化症や脊髄小脳変性症にも可能性があり、今後、是非研究会を作り、良い知恵を結集すべきだと思っています。

 この報告を一応ここで終わりにしたいと思います。長い拙文を載せ、かつお読み頂いた諸先生に厚く御礼申し上げます。

 

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新会館建設事業の動向〜その1

 去る8月23日開催の臨時総会におきまして、新会館建設地を「ハイブ長岡西側市有地の一画(約485坪)」とすることをご承認いただきました。

 会館建設委員会では、直ちに「建築設計小委員会」並びに「資金運営小委員会」を設置し、具体的な検討を開始することにしております。

 今後、会報やホームページなどで新会館建設への動向を出来る限りお伝えしていきますので、是非お気軽にご意見、ご要望などをお聞かせください。会員の先生方から多くの″声″をいただき、″長岡の医師会館″にふさわしい素晴らしい会館にしたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。(会館建設委員会委員長 大貫啓三)

●建築設計小委員会 ※50音順

 石川紀一郎(石川内科医院)

 石川  忍(石川内科クリニック)

 市川健太郎(市川医院)

 大貫 啓三(大貫内科医院)

 岸  裕(岸内科消化器科医院)

 木村 嶺子(木村医院)

 佐藤 敏輝(長岡中央綜合病院)

 鈴木 丈吉(鈴木内科医院)

 永井 博子(長岡赤十字病院)

 顧問

 後藤哲男(長岡造形大学教授)

●資金運営小委員会 ※50音順

 石川紀一郎(石川内科医院)

 大貫 啓三(大貫内科医院)

 佐々木公一(長岡西病院)

 高橋 剛一(高橋内科医院)

 立川厚太郎(立川綜合病院)

 森下 英夫(長岡赤十字病院)

 顧問

 上原  徹(立川綜合病院長)

 金子 兼三(長岡赤十字病院長)

 吉川  明(長岡中央綜合病院長)

●竣工までのスケジュール(平成13年9月現在)

 平成13年10月 設計、監理業者の選考、決定

 平成14年4月 基本設計、資金計画決定

 平成14年7月 実施設計作成

 平成14年8月 施工業者選考

 平成14年9月 施工業者決定

 平成15年秋頃 竣工

 

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用心棒のアヒル  郡司 哲己(長岡中央綜合病院)

 子どもたちの夏休みの終わりの頃のこと。東京に住む−いや正確には名前が平仮名に変わったばかりのさいたま市に暮らす、友人K君の家族が遊びに来てくれました。まあ大都市で暮らす越路町出身のエンジニア一家なのであります。

 昔から三国トンネルの向こうは埼玉も千葉も全部が「とうきょう」だったもの。子どもの頃、小学校の入学祝のランドセルをきょうだい全員に送ってくれた「とうきょうのおじさん」がいました。高校生時分に遊びに行くと、埼玉県朝霞市に住んでおられたので「なんだあ」と驚きました。

 日頃が周辺都市であれ都会のマンション暮らしで、田舎の風物が珍しい小学生の三姉妹がゲストです。

 去年の夏、我が家に遊びに来てくれたときも、畑のミニトマトを自分たちでもいで食べたり、芝生に跳ねるバッタに歓声を上げていました。今年は庭に出ると小さなひょうた池を眺め、みんなで駆け出しました。

「わあ、アヒルがいる。」

 そばに行くと、池の水を飲もうと首を伸ばしたようなポーズで固まっています。

「なんだあ、動かないよ。」

「鳴かないね。」などと口々にがっかりしました。

 じつは実物よりひと回り小さなサイズのセラミック製のインテリア置物のアヒルだったのです。

「いやあ、Gさんのことだから、とうとう本物のアヒルも飼い始めたのかと思ったな。」と父親のK君。

 柴犬三匹に熱帯魚、鈴虫に、ついにアヒルまで飼うですって?

「残念でしたあ。でもね、そのアヒルを置いたら、すっかりカラスがだまされちゃって、今年は池に水浴びに来なくなったんだよね。とっても役に立ったアヒルなんですよ。」

 子どもたちおよび両親であるK君夫婦も感心して聞いております。

 数ケ月前、郊外の安売りの家具店で買って来た決して高価ではない白いアヒル。その水を呑むような姿のよくできたアヒルを、池の端に置いたとたんです。我が家の招かざる常連客のカラスが、隣の家の屋根から様子をうかがっておるようでした。

 先客として来ている、この辺ではまったく見慣れぬ白い大きな鳥を、うさんくさそうに、横目でにらむように見ているカラスの表情が目に浮かびました。−えっ、カラスの横目って、どんなですって?

「だからそれからは、池がすごく平和になったんだよね。それで今はメダカの赤ちゃんがいっぱい生まれているから、そっと池の中を見ていてごらん。」

 子どもたちが息をこらし、重なり合うようにしゃがみこんで、見守ります。風に吹かれる葉擦れの音しかしない、とても静かな午後の時間が流れます。

「うわあ、ちいちゃいメダカさんだあ。」

「しいーつ。」・・・

 大きいメダカで三センチ足らず、先日卵から孵化したばかりの赤ちゃんメダカはわずか数ミリです。これが群れて泳いだり、水面の餌をつついたりしています。

 さてお茶を飲んでの帰り際、子どもたちが車に乗り込みます。

「かわいかったあ。メダカの学校と幼稚園だったもんね。用心棒のアヒルさん、がんばってね。」

 秋の風雨で、ダブダブと愛称をつけたこのアヒルもかなり薄汚れてきました。万が一カラスに侮られぬよう、洗ってしっかり白くしておくつもりです。

 

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