長岡市医師会たより No.396 2013.3


もくじ

 表紙絵 「早春(山形・白鷹町)」 丸岡 稔(丸岡医院)
 「ベルリン・フィルピクニックコンサート2011」 伊藤 猛(長岡赤十字病院)
 「女子力」 相馬規子(長岡赤十字病院)
 <第5回中越臨床研修医研究会
  ・頭部強打後に意識消失・後頚部痛を訴え walk in で来院した一例:小林隆昌(長岡中央綜合病院)
  ・全脊髄に及ぶ長大な病変を呈した梅毒性脊髄炎の38歳男性例:相馬規子(長岡赤十字病院)
  ・肺炎と髄膜炎を合併した22歳女性例:近藤夏樹(長岡中央綜合病院)
  ・多発脳出血を伴う高齢者 Henoch-Schöenlein Purpura の一例:鈴木博子(長岡中央綜合病院)
  ・中高年で偶然発見された大動脈縮窄症の二例:湯淺 翔(立川綜合病院)
  ・ARDS と心原性肺水腫における CT 所見の比較検討:幸田陽次郎(立川綜合病院)
  ・長期的な抗生物質内服による低遊離カルニチン血症が存在した、ケトン性低血糖の一例:澤野堅太郎(長岡赤十字病院)
  ・腹部症状を契機に診断された Churg-strauss 症候群の二例:小松雅宙(長岡赤十字病院)
  ・DIC を合併し重症化したアメーバ性巨大肝膿瘍の一例:神谷岳史(立川綜合病院)
 「侍ジャパン ありがとう・WBC」岸 裕(岸内科・消化器科医院)



「早春(山形・白鷹町)」 丸岡 稔(丸岡医院)


ベルリン・フィルピクニックコンサート2011  伊藤 猛(長岡赤十字病院)

 

 2010年に長岡赤十字病院の放射線治療システムが更新され、脳定位放射線治療はドイツの BrainLab 社のものを導入することとなりました。県内ではおなじみの装置で、この会社は使用説明をベルリンで行われ、出席が義務付けられており、私も2011年8月に5泊7日で参加することとなりました。その時の思い出話です。
 私はクラシック音楽が好きなので、出張の日程が決定してからベルリンでいけるコンサートの開催を調べ始めた。夏の真っ盛りなのでオペラハウスは夏休みである。ミュンヘンだったらザルツブルグとかバイロイトとか日帰りできそうなのだが、生憎ベルリンで音楽祭はあまりやってない。そんな中ベルリン・フィルのHPをチェックすると 8/23 と 8/26 にコンサートが、しかし26日は sold out である。とりあえず23日すぐゲット。料金が42ユーロと激安? もう一度HPをチェックすると本拠地フィルハーモニーではなくワルトビューネとなっている。???ベルリン・フィルのピクニックコンサートがワルトビューネで開催されることは知っているが、あれはシーズンエンドの時期でもうすこしはやくないか? ネットで検索してみると、7月3日のコンサートは悪天候のため8月23日に延期されたとの記事が! じゃあこれは千載一遇のチャンスということで、ありがたく聞かせてもらうこととした。
 というわけで、2011年8月23日はワルトビューネコンサート当日。一人旅なのでまず会場がどこにあるかがわからない。しかし今の世の中グーグルマップで一発検索である。もよりの駅は S-Bahn のピヘルスベルク駅らしい。幸い滞在ホテル近くのベルヴー駅からS3、S75で直通である。さて、午後4時頃になり講習も終わりコンサートに出発、ベルヴー駅からスパンドゥ行きの S-Bahn に乗り込む。結構混んでいるがベルリンでは満員電車など見たことがないので、これはピクニックコンサートへ行く人が大勢乗っているんだなあと思われる。案の定、ピヘルスベルク駅で降りると大勢が下車、人の流れのまま歩いて行くとテニスコートの脇を抜けて会場付近につくが、このあたりはグーグルストリートビューで予行演習済み。公園入口でチケットの提示とバックのチェックがある。爆発物というよりは瓶を投げたりすることのないようにということで、ペットボトルとか全部没収。林の中を抜けると広大な広場にでる。開演2時間前というのに半分ほどの入り。入場券はブロック別の自由席で各ブロックに入る入口で係員の入場券チェックがある。自分はFブロック。場内案内は小さくてわかりにくいがチケットを見せれば親切に指さして教えてくれる。座席は石でできた階段ベンチで周りはドイツ人の家族連れがほとんど、バスケット広げて食事始めるグループも多い。早速ビールを買いに行く。ソーセージやらサンドイッチまでテイクアウトの屋台も多数あり、有名なプリュッツェルも籠に入れて座席まで売りに来る。ビールを飲んで待っていると夕焼けは綺麗だし、風は気持ちいいし、幸せ。
 日も落ちて開演30分程前には団員がステージに登場、ウォーミングアップを開始した。恒例と言われていたウェーブがコンサートマスターの合図で数回繰り返され会場は盛り上がる。
 プログラムはリッカルド・シャイー指揮で
  ・ショスタコーヴィチ ジャズ組曲第2番
  ・ニーノ・ロータ 組曲「道」
  ・レスピーギ ローマの噴水
  ・レスピーギ ローマの松
 ニーノ・ロータはゴッドファーザーとかロミオとジュリエットくらいしかしらなかったが、あとでググったら本人は映画音楽は余技で自分はクラシック作曲家と言いはっていたそうだ。「道」(イタリア語で Strada)はフェリーニの映画音楽の改変版らしい。映画は一回見たことがあるが、音楽までは覚えていない。ショスタコも聞くのは初めてだ。
 時間になってもシャイーがなかなか登場しないので会場から手拍手がはじまる。まず主催者が登場、あいさつはドイツ語で全然わかんない。たぶん延期になったが今日開催できて嬉しいとか言っていたのだろう。続いてシャイーが登場、すぐジャズ組曲が始まる。全然反響がない会場なのでどんな音なのか心配だったが、まあすごい音量。低弦打楽器が残響がない分歯切れよくすばらしい響き。弦のアクションも大きく、いつもより大音量出しているのかどうかわからないが、なにしろベルリン・フィルは弦の最後列までコンマスのように弾くので有名。金管のソロがいろいろな楽器であるのだがみんなメチャクチャうまい。一曲目が終わると思わず拍手が入り、そのまま一曲ずつ拍手が挿入されることとなった。クラシック畑の人々なのにスウィング感は抜群によく、日本のオケがこういうのやると本当に冴えないんだよねえ。
 二曲目はニーノ・ロータ。そういえば聞いたことのあるメロディがいくつかある。休憩を挟んで後半はレスピーギ。上手なオケでないと雰囲気ぶち壊しの難曲だが、さすがベルリンフィル、あぶなげない。圧巻は鳥のさえずりのテープ(リアル森の中なので絶品)からつながる最終曲のアッピア街道の松。バンダをどこに配置させるのか楽しみだったが、舞台下手の別舞台の上だった。PAの力が大きかったのかもしれないが、ものすごい音の洪水で圧倒された。(このコンサート模様は NHK-BS で中継放送されました。)
 時差ボケもまだあるし、翌日も仕事が早いのでアンコールは聞かずに帰る。名物の Berliner Luft(皆で手持ち花火を振り回す)が聞けなかったのは残念だが、寒くて風邪引きうだったので渋滞にまきこまれないよう大事をとった。
 なお、26日もキャンセルチケットが手に入りフィルハーモニーでラトルのマーラーを聞いてきました。もちろん勉強もちゃんとしましたよ。

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女子力  相馬規子(長岡赤十字病院)

 長岡赤十字病院研修医二年目の相馬規子と申します。
 原稿依頼がJOY(女医)シリーズなので、「女子力」について思うがまま書きたいと思います。以下記載することは、ただ私の興味範囲までの話、かつ自分の女子力アップのためであり、論文的考察はないことを先に記しておきます。
 「女医は男性脳が強く、女子力がない」なんてことは耳にしますし、現実、私はいつも周囲の研修医をはじめ、皆々様から常日頃「もっと女子力つけなよ、女子力が足りないぞ」とありがたい?ご指摘をいただきます。勿論、それについて気にしていないわけではありませんが、そもそも「女子力」を正確に調べたことがなかったため、広辞苑で調べてみました。が、記載がなかったため、仕方がなく、Google で検索してみると、「女性の、メイク、ファッション、センスに対するモチベーション、レベルなどを指す言葉」とありました。女子力がメイク、ファッション、センスの3つに集約されてしまうと、化粧品は基本「コダマ」で購入し、洋服は基本4,000円以上買わない私は、メイクやファッションに対するモチベーションやレベルは0(ゼロ)=女子力がないことになってしまい非常に残念です。そこで、センスという一言を広げて考えてみました。センスならと思い、仕事に対するセンスを医師の仕事と考えてみると、問診のセンス、身体診察のセンス、検査のセンス、治療のセンス、病状説明などの説明のセンス等々でしょうか。しかし、私の経験から考察すると、非常に仕事のセンスがよい女性の先生方は、「あの先生は女子力が高いわ?」ではなく、「あの先生は仕事ができる?」と評判になります。やはり、女子力とは、女性特有の領域である、メイク、ファッション、家事、気遣いができる女性ということでしょうか。確かに、化粧が上手で、お洒落で、冷蔵庫の中身をみてさくっと料理ができるような料理上手で、さらに細かいところまで気が付ける女性は女子力が高いといっても反論はされなさそうです。
 さて、これから忘年会、新年会シーズンということで、「飲み会の女子力」について調べてみました。またも Google 検索となってしまいますが、飲み会での女子力は、Step1:盛り上げ上手。相手の話をよく聞いて、なおかつリアクションを大切に、相手の気持ちを反復し、オチは必ず拾う。相手を喜ばせることが女子力の基本のようです。Step2:上げ下げ上手。褒め言葉を連発して、たまにツッコミをいれる。相手が何の変哲もない話をしているときは同調し、5W1H(いつ・どこで・何故・誰が・何を・どのように)で質問すると良い。相手は自分が話上手だと感じると気分がよくなるようです。Step3:気配り。ここで大切なのがバランスのようです。気配りしすぎても相手の話を聞けませんし、話だけ聞いていると気が利かない女性となってしまいます。そこで、(1)食事が来た瞬間に食事の取り分けに取り掛かり、そのタイミングで不要な食器を店員に渡して下げてもらう。(2)食器の上げ下げ、食事の取り分けは相手の話を聞きながら手だけ動かす。(3)話をしながら相手のコップが空になっていないかに細心の注意を払う、と気が利く女子力が発揮されるようです。さらに重要なことはこれらの Step を特定の人に実践するのではなく、その場にいる全員に対して行うことが大切のようです。
 とりとめのない話をしてしまい、この文章を読んでいただけた女性の方がどのように評価されるかは不明です。従って、まずは私が上記の調べたことを実践し、「最近、女子力ついてきたね、女子力感じるわぁ」と評価されるかを検討する必要性があると思います。しかし、同じ行動をとっても人それぞれ評価は異なってしまうため、実践内容を検討、考察し、自分自身にあった秘訣を見つけることが女子力アップさせる近道になるのだと思います。

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第5回中越臨床研修医研究会

頭部強打後に意識消失・後頚部痛を訴え walk in で来院した一例  小林隆昌(長岡中央綜合病院)

症例:17歳男性
主訴:意識消失・後頚部痛
【現病歴】ラグビーの試合中、他選手にタックルした際に頚部を前屈した状態で前頭部〜頭頂部を地面に打ちつけ、2〜3分間意識消失した。間もなく覚醒、完全に意識回復し起き上がって歩行も可能であったが、後頚部痛を認めたため家人に連れられ自家用車で来院、同日当院救急外来を受診した。
【既往歴・内服薬】特記事項なし
【身体所見】vital sign は意識状態も含め異常なし。神経学的所見も上肢・下肢共に運動障害・感覚障害なし、指折り可能、深部腱反射異常なし、歩行異常なしと特に異常を認めなかった。頚部の診察では前後左右各方向に運動時痛を訴えるが、外表からは明らかな熱感・腫脹などはなし。以上より、明らかな神経学的異常所見を認めないが、短時間の意識消失エピソードがあったため頭部CTの水平断を、さらに後頚部痛の訴えもみられたため同CTで頚椎まで撮影範囲を広げてもらい矢状断をオーダーした。頭部CT所見は水平断で頭蓋内に異常所見を認めなかったが、矢状断で軸椎(C2)歯突起骨折(前方へ約6mmの偏位あり)を認めた〔画像参照〕。
【診断】軸椎(C2)歯突起骨折
【その後の経過】すぐに頚椎カラーを装着し整形外科医コール、即日入院し第3病日ハローベスト装着術及び透視下での牽引による整復術を施行した。第7病日より歩行器使用での歩行開始し第22病日退院、以後外来にてフォローアップされていたが、骨折部の骨癒合が遅延しこの後大学病院へ紹介、スクリューを用いた ORIF(観血的整復・内固定術)を施行された。現在は頚部運動時に時々クリック音を認めるものの可動域制限は無く、特に後遺症なく日常生活を過ごしている。


全脊髄に及ぶ長大な病変を呈した梅毒性脊髄炎の38歳男性例  相馬規子(長岡赤十字病院)

 神経梅毒は、スピロヘータの Treponema pallidum 感染後に生じる神経系疾患の総称です。
 Treponema pallidum は中枢神経系に主に血行性に侵入し、初感染後、数年〜十数年経過してから障害を引き起こします。神経梅毒は、臨床的に大きく無症候性、髄膜血管型、実質型に分類されますが、今回の症例は、髄膜血管型に分類される脊髄炎を発症した症例です。
 症例は38歳男性。歩行障害、感覚障害、膀胱直腸障害、背部痛を主訴に当科に入院しました。神経学的所見としては、両下肢で屈曲筋優位の筋力低下と両下肢の深部腱反射の亢進、バビンスキー反射は両側陽性であり、Th 9 以下の温痛覚の低下と右側に強い痙性歩行を認め、更に尿閉と便秘を認めました。血液検査所見では、CRP の軽度上昇を認める以外、異常所見はなく、血清検査と髄液検査で梅毒反応が陽性でした。画像上、脊髄 MRI 検査で C 3 〜 TH 10 の髄内に T2 強調画像で高信号病変を認め、脊髄辺縁に造影病変を認めました。追加の情報として、5〜6年前から不特定多数との性行為があったことが判明し、神経梅毒による横断性脊髄炎と診断しました。
 プレドニンを併用したペニシリン大量点滴療法を行い、髄液検査、臨床症状ともに改善が得られました。また、治療後の脊髄 MRI 検査では、治療前に認めた T2 強調画像の高信号領域や脊髄辺縁の造影病変はほぼ消失しました。MRI で広範な脊髄病変を認める疾患には、視神経脊髄炎、脊髄動静脈奇形、悪性リンパ腫や脊髄サルコイドーシスなどが挙げられますが、梅毒性脊髄炎も鑑別疾患の一つに挙げる必要があります。
 御指導いただいた長岡赤十字病院神経内科、梅田能生先生、梅田麻衣子先生、須貝章弘先生、小宅睦郎先生、藤田信也先生に深謝致します。


肺炎と髄膜炎を合併した22歳女性例  近藤夏樹(長岡中央綜合病院)

【症例】22歳
【主訴】頭痛、発熱
【現病歴】40℃の発熱、頭痛で近医受診し、CAM、NSAIDs で治療されるも改善せず当院救急外来受診。髄膜刺激症状は認めず、胸部レントゲンで浸潤影を認め、肺炎の診断で同日呼吸器内科に入院した。
【生活歴・既往歴】特記すべき事項なし。
【入院時現症】体温40.1℃、左下肺野で湿性ラ音聴取、項部硬直や Jolt accentuation の髄膜刺激症状なし。
【入院後経過】入院時血液検査では炎症反応と軽度の肝機能異常以外は特記すべき所見がなく、臨床所見と合わせ非定型肺炎を疑われ、MEPM、PZFX で治療開始した。嘔気の出現に伴い GRNX に変更し、症状は軽快傾向であったが、下痢が出現したため CAM に変更した。CAM に変更後、再び発熱、頭痛、炎症反応の再燃が出現した。著明な頭痛も有り、髄膜炎の疑いで神経内科コンサルトとなり、腰椎穿刺を施行された。腰椎穿刺の結果より髄膜炎の診断で神経内科転科となった。
【転科時現症】体温40.5℃、左下肺野で湿性ラ音聴取、項部硬直、Jolt accentuation はいずれも陽性他、神経学的所見で特記すべき所見は認めない。
【転科後経過】血液検査では白血球増多は認めたが、入院時に認めた肝機能異常は正常化していた。髄液所見では色調は混濁、1908/3(単核球54.9%、多核球45.1%)とやや多核の増多を伴う細胞数の増加を認め、髄膜炎と診断された。髄液所見より細菌性髄膜炎と考えられ、細菌性髄膜炎のガイドラインに準じて MEPM および DEX の事前投与を行ったが、非定型肺炎の合併や GRNX が著効した経過などから、マイコプラズマ髄膜炎の可能性も考えられ CPFX も併用した。治療開始後は速やかに解熱し、頭痛症状も軽快した。症状軽快後の腰椎穿刺では202/3と細胞数の減少を認め、多核球も消失した。治療効果判定の採血時にマイコプラズマ抗体の測定を行ったところ、入院時には陰性だった抗体価が160倍と陽性となった。合わせて髄液でも抗体価の測定を行ったところ、いずれの抗体価も16倍と上昇しており、本例をマイコプラズマ髄膜炎と診断した。2週間 MEPM+CPFX で治療を行った後 GRNX に内服切り替えを行い退院した。
【考察】マイコプラズマの合併症として、2〜5%に神経合併症を生じると報告がある。髄膜炎や脳炎、脊髄炎などがあるとされ、マイコプラズマの神経への直接浸潤や自己免疫的機序を介しての発症、マイコプラズマの産生する神経毒素による機序が考えられている。本例の髄液培養は陰性であり、無菌性髄膜炎は一般的にウイルス性が大多数を占めるが、本例のようにマイコプラズマによる無菌性髄膜炎も起こりえる。著明な頭痛を伴う非定型肺炎や、意識障害などの神経学的異常を伴う肺炎では本疾患も念頭に置く必要がある。


多発脳出血を伴う高齢者 Henoch - Schöenlein Purpura の一例  鈴木博子(長岡中央綜合病院)

【症例】79歳、女性
【主訴】会話困難、紫斑既
【既往歴】1960年〜2型糖尿病、高血圧、2009年左橋の脳梗塞(軽度認知症)
【現病歴】 2011年7月認知症状が悪化し会話困難となり、その後両下肢の痺れと点状出血が出現。頭部MRIで右橋出血と広範な点状梗塞巣が指摘され当院脳外科へ入院後、皮膚科を受診し Henoch-Schöenlein Purpura(以下HSP)を疑われ内科に転科した。
【転科時現症】JCST−1、心窩部と臍右周囲に圧痛、両下肢対称性に膨隆のない紫斑、上肢 Barre 徴候:右回内、Mingazzini 徴候:右下肢に動揺あり。
【転科時検査所見】第]III因子の低下、蛋白尿と尿潜血陽性、FDP 軽度上昇を認めた。抗核抗体や ANCA は陰性。画像:頭部 CT で右橋に5mm大の出血、MRI T2 で橋の出血、陳旧性微小出血複数。上部消化管内視鏡:上十二指腸角中心に全周性にびらんと出血。
【経過】HSP と診断後 PSL 30mg を内服開始。2日後の頭部CT上、左前頭葉皮質に新しい出血あり、第]III因子製剤を3日間投与した。症状は改善するも蛋白尿が持続し、3日間 mPSL 500mg セミパルス施行。腎生検の結果、メサンギウム細胞増殖と係蹄の断裂、メサンギウム領域に IgA が全節性に沈着し IgA 腎症の所見と活動性の高い腎炎ないし血管炎の所見であり紫斑病性腎症に合致した。再度セミパルスを3日間施行し、その後症状の再燃なく経過した。
【考察】考察
 HSPで頭部疾患随伴例は小児に散見されるが、成人では報告が少なく本症例のような脳出血合併例は稀である。また、本症例では第]III因子の低下が確認されたが、第]III因子は血液凝固に関与するフィブリン安定化因子でトロンビンにより活性化され第]IIIa因子になり、そのトランスグルタミナーゼ活性により、フィブリンモノマー、α2アンチプラスミン、フィブロネクチン、フォンビルブラント因子のグルタミン残基間等に架橋を形成しフィブリン塊を安定化させ、プラスミンによる分解を阻害し凝固塊の強固性を高める。プラスミンはフィブリン分解反応の1、2次線溶反応に関与するが、2次線溶反応が亢進すると一旦止血後数時間で再出血する後出血を起こす。第]III因子が低下するとフィブリン塊の安定化による止血機序が不完全となり本症例のような脳出血を起こすと考えられる。
 HSPで第]III因子が減少する理由としては、血管周囲の炎症過程で血管壁に付着した好中球より分泌されるプロテアーゼやトロンビンによる分解、炎症の際凝固が亢進することによる消費、血管周囲へのフィブリン編成による過度の消費等が考えられている。HSPでは特に皮疹先行のない重篤な腹部症状のある患者で第]III因子低下の報告があり、第]III因子の測定はその早期診断、治療の面で有用と考えられる。また、脳出血を合併したHSPで脳出血発症早期に第]III因子補充を行うと出血の拡大はみられなかったとの報告があり、本症例でも補充療法後は出血の拡大や出現はなく治療が奏効したと考えられる。


中高年で偶然発見された大動脈縮窄症の二例  湯淺 翔(立川綜合病院)

 大動脈縮窄症とは、大動脈弓に狭窄のある疾患で、多くは心奇形に合併し乳児期に発見される。心奇形を合併しない場合、学童期以降から成人期に上肢高血圧、下肢の脈拍減弱等で気付かれる。無症状で経過しても、未治療の場合、感染性心内膜炎や大動脈解離、高血圧性心不全をきたし、平均生存年齢は35歳程度とされており、中高年で発見される例は稀である。
 症例1は幼少時より高血圧を指摘されていた61歳男性。降圧剤によるコントロールは不良であった。就眠中の呼吸苦を主訴に救急外来に受診し、高血圧性心不全の診断で入院した。心エコーでは明らかな弁膜症を認めないにもかかわらず、心雑音として第3肋間胸骨左縁を中心とした収縮期雑音を聴取し、また、背部にも収縮期雑音を聴取した。血圧 205/66 mmHg と高値であったが、足背動脈は両側とも触れが微弱であり、ABIは右0.52、左0.58と低下していた。心不全は利尿剤、カルペリチド等により軽快したが、病歴から二次性高血圧の鑑別が重要と考えられたため、精査を進めた結果、胸部造影CTで大動脈縮窄症が指摘された。本例では降圧剤増量により収縮期血圧が 130 mmHg 前後に落ち着いたため、内服フォローとした。
 症例2は15歳時より高血圧を指摘されていた51歳男性。症例1と同様に降圧剤によるコントロールは不良であった。健診で肺癌を疑われたことを契機にCTを撮影し、偶然上行大動脈の拡大を指摘された。精査の結果、大動脈縮窄症を原因とする二次性高血圧により、胸部大動脈瘤・大動脈弁閉鎖不全症(弁輪拡張)を生じていた。本症例でも両側の足背動脈の触れは微弱で、ABI は低下していた。胸部大動脈瘤に対し Bentall 術を、降圧目的に大動脈外腸骨動脈バイパス術を施行した。術後は降圧剤の減量が可能となった。大動脈縮窄症の診断には病歴や身体所見が重要で、基本的には手術適応だが、個々の症例ごとに評価が必要である。手術を行わなかった症例1についても、今後、腎機能悪化、跛行などの症状が出る際には、バイパス手術を再検討する方針である。


ARDS と心原性肺水腫における CT 所見の比較検討  幸田陽次郎(立川綜合病院)

背景:2012年に ARDS の定義が改定され、心不全をもつ患者でも ARDS となりうるようになった。
目的:当院は心原性肺水腫をみることが多いが、臨床的に ARDS と考えられる症例もある。心原性肺水腫と鑑別することは臨床的に有用と思われ、両者の CT 所見に違いがあるのかを比較検討することとした。
方法、対象患者:過去4年間のデータベースから心原性肺水腫、ARDS を10例ずつ抽出。放射線科医、放射線科研修医が別々に CT 画像を評価した。
結果:心原性肺水腫の4例で肺門部優位の陰影だった。小葉間隔壁の肥厚、気管支壁の肥厚は心原性肺水腫のみに高率に認めた。牽引性気管支拡張は ARDS で3例みられた。心原性肺水腫では多量の胸水と圧排性無気肺がみられ、ARDS では少量の胸水がみられた。
結語:肺門部優位の陰影、小葉間隔壁の肥厚、気管血管束周囲間質の浮腫が ARDS より心原性肺水腫を示唆する所見であった。当院の症例検討では ARDS と心不全の鑑別に CT が有用と思われた。


長期的な抗生物質内服による低遊離カルニチン血症が存在した、ケトン性低血糖の一例   澤野堅太郎(長岡赤十字病院)

【はじめに】飢餓性ケトーシスによるエネルギー再分配後も血糖値を維持できない状態を、ケトン性低血糖と呼び、乳幼児に多いことが知られている。さて、脂肪酸のβ酸化によるケトン産生にはカルニチンが必要である。一部の抗生物質に含まれるピボキシル(PI)基は、カルニチン抱合され尿中に排泄されるため、長期投与によりカルニチンが欠乏し、飢餓時にケトーシスを伴わずに、低ケトン性低血糖をきたすことがある。今回、長期的なPI基含有抗生物質内服によると思われる低遊離カルニチン血症が存在した、ケトン性低血糖を来たした一例を経験したためここに報告する。
【症例】1歳男児
【主訴】活気低下、食欲低下
【現病歴】中耳炎、感冒で2カ月前から耳鼻科、小児科に通院。入院2日前から経口摂取不良、活気低下あり。入院当日傾眠傾向で夜間救急を受診、低血糖の診断で当科を紹介され、入院。
【検査所見】血糖 48mg/dl、3−ヒドロキシ酪酸(3-OHB)3635μmol/l、遊離脂肪酸(FFA)3.54mmol/l、FFA/3-OHB 0.97、カルニチン:遊離 10.4μmol/l、アシル化 23.3μmol/l、その他内分泌学的異常、先天性代謝異常なし。
【臨床経過】グルコース静注で症状は消失。3病日から活気改善、血糖値は 90mg/dl 前後で経過。6病日に輸液を中止、7病日に意識障害を認め、血糖値 44mg/dl と低血糖あり。グルコース静注で症状は改善し、その後再燃なし。
【考察】内服歴を入念に聴取したところ、CFPN-PI、CDTR-PI、TBPM-PI など、PI 基含有抗生物質を入院前64日間中27日間内服しており、それにより低遊離カルニチン血症を来したと思われた。しかし、ケトーシスの存在、FFA/3-OHB ≦ 1 であることから、脂肪酸のβ酸化経路の障害によらない、単純なケトン性低血糖と診断した。入院後の低血糖時もケトーシスがあり、経口摂取不足、糖含有輸液の中断が原因と考えた。PI基摂取中止後、2週間で血中遊離カルニチン濃度は正常化した。本症例はケトン性低血糖であったが、カルニチン欠乏による低ケトン性低血糖の報告は散見され、PI含有抗生剤を使用する際には長期投与にならないよう注意が必要である。やむを得ず長期投与する場合は、頻回な糖質摂取などの生活指導や、カルニチンの予防投与が必要と思われる。
 ご指導いただいた金子昌弘先生、佐々木直先生、長崎啓祐先生、鳥越克己先生に深謝致します。


腹部症状を契機に診断された Churg-strauss 症候群の二例   小松雅宙(長岡赤十字病院)

【はじめに】Churg-Strauss 症候群(CSS)は喘息やしびれを契機に診断されることが多い。今回、腹部症状を契機に診断されたCSSの2例を経験したので報告する。
【症例1】63歳男性。1ヵ月前より上腹部痛が出現した。上部消化管内視鏡検査で胃びらん病変を認めた。その後末梢血好酸球増多に気づかれ加療目的に入院した。胃びらん病変からの生検で好酸球浸潤を伴う血管炎を認め、CSSが疑われた。問診を再度行うと、1年前に近医で咳喘息と診断されたこと、右下肢にしびれ症状の存在が明らかになった。CSSと診断され、加療目的に当科に転科した。入院時検査所見では、WBC 23300/μl,好酸球53%と好酸球増多を認めた。MPO-ANCA は陰性であった。入院後、ステロイド療法により症状改善した。退院前に行った内視鏡検査ではびらん病変の改善を認めた。
【症例2】30歳女性。1ヵ月前より腹痛・下痢症状が出現した。当初腸炎と診断されたが、徐々に悪化傾向であった。末梢血好酸球増多を認め近医入院した。入院後、両下肢に紫斑・しびれが出現した。紫斑部位からの生検で好酸球浸潤を伴う血管炎を認めた。再度問診を行うと、1年前に成人になってから初めての喘息症状が出現していたことが明らかになった。CSS と診断され加療目的に当院に転院した。入院時検査所見はWBC 15500/μl,好酸球46%と好酸球増多を認めた。MPO-ANCA 陽性であった。ステロイド療法・シクロフォスファミド・免疫グロブリン療法にて改善を認めた。
【考察】CSS ではほぼ全ての症例で喘息症状・末梢血好酸球増多を認める。喘息症状出現から数年後の発症が多いとされるが、CSS と同時に出現する場合や CSS 後に喘息が出現することもある。我々が経験した2症例は喘息症状が軽度であり診断が遅れた。CSS の消化器症状は腹痛・下痢・嘔吐など非特異的なものが多いとされる。腹部症状は予後不良因子の1つでもあり、急激に増悪し致死的疾患に至ることも稀ではなく、早期診断・早期治療が重要と考えられる。末梢血好酸球増多が診断に有用であり、日常診療上留意する必要がある。
 本症例の要旨は日本内科学会第131回信越地方会で報告した。


DIC を合併し重症化したアメーバ性巨大肝膿瘍の一例   神谷岳史(立川綜合病院)

  症例は45歳男性で発熱、腹痛、食欲不振、倦怠感を訴えていた。
 既往歴、家族歴に特記すべきことなく、妻と娘2人の家族で渡航歴は20年前にグアム旅行をしただけであった。
 生来健康であったが平成24年1月27日頃より38度台の発熱あり。腹痛、食欲不振、倦怠感を認めA病院を受診し肝右葉に巨大な腫瘤と腹水を認めたため肝腫瘍の破裂疑いにて当院へ救急搬送された。当院受診時の身体所見では黄疸があり腹部全体に圧痛を認め、肝を3横指触知した。腫瘍マーカーは陰性であり白血球と CRP の著明な上昇と T-bil、肝酵素の上昇認め、TP、Alb の低下も認めた。CT にて肝右葉 S7/8 優位に巨大な腫瘤(168×122mm)があり造影検査で動脈相、門脈相、平衡相において内部に染影は認めなかった。
 腫瘍マーカーと肝炎、アルコール多飲歴のどれも認めず平成23年の9月の健診の腹部エコーで異常を指摘されてないこと、入院時の画像所見と併せて肝膿瘍と診断した。抗生剤を開始し起因菌同定目的に穿刺ドレナージを施行。大量のゲル状で黄白色の膿が引け、細胞診でアメーバは確認できず細菌培養は陰性だった。その後も抗生剤を変更するが改善なく、アメーバ膿瘍の可能性を考慮し7病日目にメトロニダゾール内服開始。同日から鼻出血、血便などの出血傾向出現し DIC を併発。追加検査の血液培養陰性、便の塗沫検鏡もアメーバ陰性であったが膿の細胞診を再度確かめたところ PAS 染色強陽性の赤痢アメーバ栄養体が存在し、メトロニダゾール単独に変更した。肝・胆道系酵素は改善してきたが造影 CT にて肝膿瘍のサイズは 20cm 大に増大しており、肝膿瘍が胸腔を圧迫し徐々に呼吸状態が悪化。緊張性血気胸を合併し緊急手術となるも手術室搬送後すぐに CPA になり蘇生後胸腔血腫除去のみを行い終了とした。その後も呼吸状態改善みられず永眠された。Eggleston らは膿瘍の破裂あるいは切迫破裂の症例や内服加療で改善しない症例、左葉にある膿瘍の例などでは手術をする指標であると述べており我々の症例でも膿瘍は穿破しており全身状態の良い入院早期に手術を行うという選択肢があったかもしれない。本症例を振り返りドレナージ不応例や巨大膿瘍も内科的治療では治療困難であり、手術適応があるのではないかと考えるが過去にそのような報告はなく更なる巨大アメーバ膿瘍に関する情報の蓄積が望まれる。

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侍ジャパン ありがとう・WBC  岸 裕(岸内科・消化器科医院)

 弥生、三月に入って暖かい日が続くとスキー場のように一面の雪に覆われていた我が家の庭もあちらこちらと地面が顔を出し畑も近いうちにできそうである。これからはスポーツ好きな方々にはマラソン、テニス、サッカー、ベースボール、すべて一層楽しめることと思われます。
 スポーツはプレイするものでは無くテレビの前で見ながら応援するものである私にとっても今年の三月は日本の三連覇がかかったWBC(ワールドベースボールクラシック)があるとあってワクワク、ドキドキ、テレビの前でたくさんの感動をいただいたのでした。
 イチローや松坂、ダルビッシュなど大リーグ組の日本チームへの参戦が叶わず開幕前の強化試合で阪神を相手に完封負けを喫して「打てない」「阪神に負けたってことは阪神がWBCに行った方が良いって事?」「山本監督は指示出すな!」(失礼、私が言ったのではありません。)等々過激な批判が続出したにも関わらず日本チームの侍たちは着々と調子を上げていった。テレビの前の応援も鳥谷敬が盗塁を決めたり投手の前田健太が素晴らしい投球で三振を重ねる度に、四番で主将の阿部慎之助の1イニング2ホームランなどで拍手喝さい、熱が入って行った。しかしながら、名前も顔も知らない選手が多くなりました。当方は巨人、大鵬(ご冥福をお祈りいたします。)、卵焼きの世代で、解説をしていた桑田真澄さんでさえ若い若い選手であり「もうこんな立派な解説者になったのか」と驚いたのですから……。
 今回のWBCは対戦相手に恵まれたように思われます(アメリカ程でないと思われますが……)。宿敵、韓国は日本が相手じゃないと燃えなかったのか第一ラウンドで敗れてしまった。日本はキューバに敗れたものの第一ラウンドを2位で第二ラウンドに進出し、その第二ラウンドでキューバはオランダに敗れ日本と対戦せずに決勝リーグにすすめなくなった。そして日本はそのオランダを破って三連勝、見事に第二ラウンドを一組1位通過したのである。山本監督も心を熱くして決勝リーグの行われるアメリカに向った事と思われます。
 決勝リーグの対戦相手は二組の結果待ちである。ドミニカ共和国、アメリカの勝者と敗者復活サイドでプエルトリコと戦った勝者が決勝リーグに進み2位のチームと日本の準決勝が行われることとなっている。この決勝リーグで二つ勝てばWBC三連覇である。
 この原稿が“ぼん・じゅ〜る”誌に掲載される頃には結果は出ていることでしょう。しかしスポーツは選手達が最後まであきらめずに全力を尽くして戦う姿に勇気と感動を頂いているのである。さらに結果が付いてきたならば私はもちろん日本国としても大変に嬉しく喜ばしいことで有ります。
 などとパソコンに向っていると我が家には珍しく運動神経に優れた仔、ちびが「いつまで私をほおっているのよ!私とボール投げをしましょ。」とよだれでべとべとになったボールを銜えて目を輝かせてやってきた。ちびはボール投げが大好きで飽きる事がない。練習の甲斐あって空中で見事にキャッチした時には得意満面で飛んで来るし、キャッチに失敗してボールが後ろに転がるとあわてて拾いに行って恥じた様子でもう一度投げてと持って来る。
「よしよし、投げてやるぞ。そーれ!」

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