自然災害発生時における 医療支援活動マニュアル
平成16 年度 厚生労働科学研究費補助金 特別研究事業「新潟県中越地震を踏まえた保健医療における 対応・体制に関する調査研究」


第4部

災害時の小児看護の対応

− 小児医療の現場と避難所での対応 −

兵庫県立大学看護学部小児看護学 教授 片田 範子


小児医療の現場の対応と災害への備え
  小児医療現場の備え
  小児医療の現場が被災した場合の対応
被災地で生活する子どもたちに関わる看護職者用ガイドライン
避難しているこども達の把握
避難しているこどもの生活環境の把握
引継ぎ


小児医療の現場の対応と災害への備え

 「小児医療の現場が被災した場合の対応と災害への備え」についての研究は、兵庫県立大学21世紀COEプログラム−ユビキタス社会における災害看護拠点の形成−看護ケア方法開発プロジェクト小児班が取り組んでいる研究に加えて行われたものである。阪神・淡路大震災後、小児を預かる医療現場が被災した場合の準備状況を検証し、10年を経た現在においても病棟では十分に対応を検討しているとは言えない状況があることが明らかになった(兵庫県立大学21 世紀COE プログラム「ユビキタス社会における災害看護拠点の形成」2年間活動報告書平成15〜16年度、2005; 勝田, 2005) 。さらに、災害は、突然起こるのでその場にいる者が機転を利かせて対処するしかなく、たとえ新人スタッフであっても、病棟における管理的視点をもち的確な行動をとることが必要となる。災害時にあわてずに子どもと家族の安全を守るためには、日々の災害に対する備えが重要となる。そのためには、年に数回実施される防災訓練以外に、毎日自分の病棟で被災したときのことを想定し、現在入院している子どもやご家族の安全をどのように守ることができるかをシミュレーションしておく必要性があることが考察された。このシミュレーションを現実的に毎日行えるようにするためのツールとして「今日、災害が起こったら・・・入院している子どもたちを守るために−小児病棟用ケアパッケージ−」と題したケアパッケージ『イメージトレーニング編』とその使い方を解説した『解説編』を作成した。

 今回、新潟中越地震後、新潟県立看護大学との共同研究として、このケアパッケージの枠組みが妥当であるかを検証するため、新潟中越地震時に子どもの入院患者を有していた(小児病棟、混合病棟、NICU)病院の看護者にフォーカスグループインタビューを行った。用いられた枠組みは、先に述べたように、本来マニュアルとして使用することを目的としたものではなく、日々の実践の中で、準備性を高めるという意図で活用するためのものであり、その使用については今後さらに病院での導入を図りながら、看護師の意識の変化に効果があるかどうかを検証しようとするものであり、意図的に簡潔にまとめたものとなっている。今回提示した枠組みは、それに新潟中越地震の結果を追加したものであり(*で部位を示す)、基本的には病棟での備え項目として活用できることが検証された。

1 小児の医療現場の備え

 (1) 平常時から確認・準備しておく事柄

ア 施設の建物耐震性*

 中越地震では、病棟の避難の基準が建物の耐震性にあり、また建物の耐震性を院内に放送することにより、患者の安心にもつながっていた。施設の建物の耐震性は、施設利用者にわかりやすいところに明示しておくとともに、災害マニュアルにも記載していく。

イ 通常電源・非常電源

 ME 機器装着中の子どもは、停電が起こると生命に関わる問題が起こるので、ME 機器は、日常から非常電源につなげる習慣とし、日々の業務の中で非常電源につながっているかを確認する。自家発電の持続時間は、「病院電気設備の安全基準」で10時間以上連続供給できることが規定されているが、最大持続時間は、各施設で異なる。災害マニュアルには、自家発電装置の最大持続時間を記載し、周知しておく必要がある。

ウ ME 機器のバッテリー

 充電可能なME 機器は、日ごろから充電しておく(例えば: 吸引機・吸入器・搬送用保育器・シリンジポンプ・輸滴ポンプなど)。また、充電の目安は、機種・メーカーによって異なるので、災害マニュアルには、充電して使用可能な時間を明記しておく。

エ 酸素ボンベの場所・数・残量

 中央配管が使用できなくなった場合、酸素が必要な子どもたちには酸素ボンベが命綱となる。
 酸素ボンベがどこにおかれているのか、病棟には何本あるのか、残量はどれくらい残っているのか、使用方法などを確認しておく。阪神・淡路大震災では、酸素ボンベが散乱したという事例があったので酸素ボンベは、倒れないように保管する。

 *酸素の残量(リットル)= ボンベの内容積(リットル)× 圧力計の値(Kg/リットル)

オ 中央配管(酸素・コンプレッサーエアー)・ガスの元栓の確認

 これら可燃性ガスは火災を引き起こすので、これらの元栓がどこにあるのか、どのように閉めるのか、など常に意識しておくことで、二次災害を防ぐことにつながる。

カ ME 機器・点滴台の転倒防止

 中越地震では、キャスターのない点滴台が転倒し人工呼吸器にぶつかり正常に呼吸器が機能しなくなったが、キャスター付きのME 機器・点滴台は移動したものの転倒しなかったので、キャスター式の方が転倒しづらい。

キ アンビューバッグ*

 子どもに用いるアンビューバッグやマスクは、日常から人工呼吸器を使用している子どものもとにその子にあった大きさのアンビューやマスクを常備しておく。

ク 靴・マスク・毛布・バスタオル・上着

 これらは、保温・損傷の防止には欠かせない物品となるので、緊急時に子どもたちがすぐ使用できるように準備しておく。靴・上着・バスタオルなどは、入院時に持参する物品に含めオリエンテーションで説明する。外傷予防のため、靴を履かせる。スリッパは転倒するので避ける。
 感染や埃、煙などを防ぐためにマスクを使用する。保温・損傷のためにバスタオルや上着を使用。

ケ 非常用物品:災害が発生したときに必要となるもの*

 各病棟では、非常用持ち出し袋として、患者確認表・懐中電灯・ランタン・軍手・ロープ・ラジオなどを用意する。中越地震では、地震の情報を子どもの家族が持っていたラジオから得ている病棟があった。非常用物品の中には、ラジオを含め、その病棟でどのような物品が必要となるのか具体的に話し合い、日頃から準備しておく。

コ 救急カート

 日頃から救急カートは、どの場所にどのようなものがどのように配置されているのかを細かく確認しておく。

 (2) 病棟で決めておく項目

ア 避難待機場所・避難経路

 物理的に安全・外部からの援助が得られやすい・病棟間や外部との連絡手段がある場所が望ましい。

 病院の方針として避難の指示がないときにでも、避難の指示が出たら直ぐに対応できるように一時的に避難可能な場所に子どもを集めておくこともある。

※破壊状況や災害の種類によって避難場所は変わるので、避難経路や避難場所を1つに絞らずに複数確保しておく。

イ 退院・転棟・転院の際の情報提供方法

 患者に必要な情報(例):名前、年齢(生年月日)、性別、血液型、家族連絡先、診断名、現在の内服薬、特別な処置(呼吸器の圧など)、ID番号、主治医(施設・病棟名)、その他(生命維持として不可欠なことに限定して記入する)子どもを託すための情報の伝達方法を平常時からそれぞれの病棟で決めておく。

 日頃からネームバンドの使用を考える。

  例1:普段のサマリーを使う
  例2:ベッドネームの裏に記入する

 (3) スタッフの連絡・応援体制*

 震災時にスタッフが駆けつけてくれたことは、看護のマンパワーになるばかりでなく、看護師の精神的サポートにもなっていた。災害訓練時には、病院内の訓練だけでなく、被災時に道路の不通も考慮して何人くらいの看護師が駆けつけられるかの訓練も必要となる。

 (4) 地域との連携*

 病院の建物が倒壊の恐れがあり、避難が必要となる場合には入院している子どもの転院先を考えなければならない。特に、特殊な治療を必要とする超低出生体重児のような場合には、NICU のある施設でなければならない。同じ都道府県では収容にも限りがあるので、日ごろから、近県の病院や関連病院とのネットワーク作りが必要となる。また、お互いに災害時には、応援に駆けつけるなどのシステム作りが大切となる。

 看護管理者は、個人のレベルにおいても、自治体・警察・災害・保健所・ボランティア組織など、災害関係者との災害時のネットワークを考慮し、積極的に情報の共有と活動の連携を考え、日ごろから情報ネットワークを個人的に拡大しておく。

2 小児医療の現場が被災した場合の対応

 (1) 子どもと家族の安全確認

 病棟を廻り、子どもと家族の状態、状況の確認を行い、それぞれに対応する。

<すぐかけつけなければならない子どもたち> 

 呼吸管理している子ども:災害時に、停電などにより生命維持のための機器が作動しないといった状況に陥り、生命の危険に直結する子どもたちは、アンビューバッグによる加圧をする。また、人工呼吸器を使用中の場合は揺れにより抜管する恐れがあるので、ベッドあるいは保育器と人工呼吸器が離れないようにしなければならない。人工呼吸器の電源が切れると、コンピュータ制御の機種などは設定がリセットされる場合もあるので、必ず設定モードの確認をする。

 (2) 子どもと家族への情報伝達*

 中越地震では、子どもよりも付き添っている家族の不安が強く、単独行動をする家族もいた。まずは、何が起きたのか、その時の病棟の状況、病院の方針、具体的な行動を子どもと家族に伝える。伝達手段:一斉放送(できる場合) 看護師が病室を廻る。

 (3) 震災時の子どものストレスを軽減する* 

ア 震災時は子どもを1 人にしない

 (ア) 個室の場合は、病状を考慮しながら大部屋に移動させる。
 (イ) 高学年の子どもに協力してもらい、低学年の子どもの面倒を見てもらう。
 (ウ) 病棟の広い場所にみんなで集まる。
 (エ) 幼い子どもの場合には、引き寄せる、抱くなど身体的接触により子どもを守る。
 (オ) 親や家族の態度が子どもに影響することを考え、家族が混乱しないように支援する。

イ 家族と離れて入院している子どもは、家族との連絡が早期に取れるように支援する。

ウ 超低出生体重児は、神経組織が未発達であり長時間に及ぶ余震の揺れにより、過度なストレスが加わる。余震に備え、ポジショニングなどの工夫が必要となる。

エ 震災後は、子どもの心身の変化に気づき、早めに対応する。

オ 被災後の子どもは、現実から離れた言動や恐怖体験時に戻ってしまうような言動がある。このような言動が現れても、否定したりしてはいけない。

 (4) 子どもと家族の避難

 子どもの状態や発達段階、装着している機器、感染の状態によって誘導方法は異なる。まずは看護師が落ち着いて行動する。親の付き添いがある子どもは親と一緒に避難してもらう。避難経路を確認し、看護師の役割・配置を考え、子どもの避難準備をして誘導する。避難場所では待機し、子どもの点呼や状態などの確認をする。避難時には、子どもが大切にしている物を一つ持って出ることで、子ども自身が落ち着く。

ア 看護師が搬送・誘導する必要がある子どもたち

 自力歩行ができない子どもや、ME機器等の種類によっては、搬送による避難が必要な子どもは、看護師一人で搬送が可能なのかどうか、搬送するときどのような工夫が必要なのかを判断し避難する。

 (ア) 吸引が必要な場合

 直ぐに、手動式吸引機や充電してある吸引機を持ってくる。

 (イ) 体温管理(保育器)をしている場合

 毛布や衣類で直ぐに保温をする。お湯があれば温枕による保温を利用する。温枕の不足時には、蒸留水などの空きボトルを利用して、お湯をいれる。使い捨てカイロも保温に代用できる。その場合、低温やけど等に注意する。

 (ウ) 点滴をしている場合

 災害が発生し、即座にその場所から子ども達を避難させなければならない状況では、点滴は抜針することが望ましい。しかしシーネ固定をしている場合など、抜去に時間がかかる時には避難することを最優先に考え、点滴チューブをくくり、くくった外側を切る等の手段を一時的にとる。点滴を切る場合、刺入部からの長さにもよるが、できれば三方活栓などを残してはさみでルートを切る。このとき生命維持に必要な薬剤を注入している場合は、点滴を維持したまま避難させる。

【緊急であってもルートを切ってはならない場合】

 プロスタグランディン製剤・カテコラミン製剤などの循環器作用薬等、生命維持に必要な薬剤を注入している場合、この薬剤が注入できない、など直ぐに生死に関わる薬剤。

 (エ) 中心静脈からの挿入がある場合

 災害の状況では再挿入が難しいことも考えられるため、避難させる場合はヘパリンロックなどで温存できるような対応を行う。

 (オ) 持続吸引をしている場合

 持続吸引には、脳室ドレナージ、胸腔ドレナージなど、常に引圧が必要なケースなどが考えられる。入院している子どもの状態にあわせて対処する。

 (カ) 持続注入をしている場合

 経鼻や胃瘻の場合は、災害が起きたときすぐに注入を中止する。注入の停止により低血糖を起こすような子どもの場合は、ブドウ糖液をすぐに注入できるように準備しておく。

 (キ) 酸素療法中の場合

 避難時は、酸素ボンベによる酸素吸入に切り替える。その場合、病棟で管理しているボンベの数やボンベを使用するに当たって必要となる物品(流量計など)に限りがあるため、緊急時に酸素がはずせない子どもは誰なのかを日頃から把握しておく必要がある。

イ 声かけや誘導があれば自力で避難できる子どもたち

 看護師が声かけをしながら上着、靴、マスクなどを自分で着用してもらう。

ウ 感染防止を考慮した避難方法

 入院している小児患者にとって感染予防への配慮は不可欠なものである。通常から子ども達が易感染群、感染疾患群、該当しない群のどれに該当するかは意識しておき、可能な限りそれぞれが交差しないように避難・誘導する。避難時にはそれぞれがマスクを着用するなどの工夫をし、連れて行く順番、待避場所を考え感染を最小限にする。

 (5) ライフラインの停止

  <電気:非常用電源装置>

 災害などで停電が起こったとき、一般病棟では自家発電からの電圧が確立するまでに数十秒(40秒以内)かかるので、ME 機械が非常用電源に切り替わったかの確認をする。また自家発電には持続時間に制限があるので、災害時には、節電しながら優先度をつけ電気を有効に使用する。

 <水:貯水層>*

 貯水槽にも限界があるので、優先順位を決めて使用するなど節水に心がける。例:温枕、氷枕などに使用した水はトイレなどに使用する。

 <ガス>*

 中越地震において調査に協力してくれた病院では、ガスを病棟で使用しているところはなかったが、震災時には、ガスの元栓は締める。

 (6) 退院させる子どもの家族の確認と記録

 災害時に子どもを退院させることが決定した際、付き添いがない子どもたちは、家族と連絡を取り子どもを託すことになる。このとき、面識のない家族の場合、安易に子どもを託さず、家族である確認をとる。また、誰が誰に子どもを託したかの責任の所在も明らかにしておく。

参考文献

● Hitomi Katsuda, Yukie Kosako, Kaduyo Miyake, Kazumi Okada, Noriko Katada, DISASTER NURSING IN THE PEDIATRIC WARDS, The 8th Annual Conference, East Asia Forum On Nursing Science, 2005.02.

● 21世紀COE プログラム「ユビキタス社会における災害看護拠点の形成」2年間活動報告書平成15 〜16年度、2005.

被災地で生活する子どもたちに関わる看護職者用ガイドライン (資料)

 新潟中越地震の発生のあと、各地の看護職は現地に入り避難所等で救護活動を開始した。現地に赴いた看護職にとって、被災した子どもたちへの支援をどのように考え、実施するか、その時に活用するガイドラインが必要であることを認識した。兵庫県立大学21世紀COE プログラム−ユビキタス社会における災害看護拠点の形成−看護ケア方法開発プロジェクト小児班が阪神・淡路大震災の経験ならびに文献から急遽作成したガイドライン「被災地で生活する子どもたち−看護職ができること−」をもとに、実際に新潟県中越地域で支援活動を行った小児を専門とする看護師に有用性を検討してもらうためのインタビューを行った。その結果から簡便な資料が示されていれば、被災による混乱の中で役に立つだろうという意見が示されている。また、その後の他の被災地での活用からも有用性が示されている。今回提示するガイドラインには、インタビュー結果に基づく項目を追加している(* で部位を示す)。

 看護職用ガイドライン「被災地で生活する子どもたち−看護職ができること−」を示すがこれの活用については、日常的に準備として見ておくだけではなく、被災地に赴いた人たちがその時に手にしながら、支援に当たることが必要ではないかと考えている。その際に伝えたいメッセージを前文として示している。

【使って頂く皆さんへ】

 被災した方達は、被災前の生活環境とは異なるだけではなく、深刻な心配事を抱えながら生活しています。そんな中で、こども達も一生懸命生活をしています。時にはこども達の様子まで、目が行き届かないこともあるようです。ここでは被災後に、こども達が避難所あるいはそれに続く新たな環境の中におかれたときに現れる反応や行動を中心にまとめました。

 支援する状況はその時その時で異なると思います。私たちが被災した方達への支援活動で大切にしたいと考えていることは、まず生活している人たちが何を求めているか、どのような生活をしているかを、一人一人に会ってお話を聞き、実際に自分の目で確かめることです。そこから話しやすい環境作りが始まります。じっと待っていたり、たずねるだけでは、必要なケアを見いだすことは出来ないと思います。

 私たち看護職が出来ることについて、想像力をはたらかせ、そこにいる方達に確認しながら、実行することが大切だと思います。

【避難しているこども達の把握】

1 どこにこども達がいるのか?

 被災直後の避難しているこども達がどこにいるのかを把握する必要があります。他の看護師への引継ぎも考えて、避難所や地域の中などのこども達の居場所マップを作っておくと良いでしょう。

2 どんなこどもがいるのか?

 こども達の発達段階によって、必要となる関わり方や物品等が異なることがあります。年齢分布に注意しましょう。避難した場所でのこども同士の関係づくりは、被災前から知り合いか否かで異なる場合があります。居住地域が同じか、学校等が同じか等を確認しましょう。また、特別なケアを必要とするこども達が、ケアを受けられているかどうかの確認が必要となります。ハイリスクのこども達は周りからの影響を受けやすい人たちであり、また周りにも影響を与えることが考えられます。表1を参考にして援助していきましょう。

表1. 特にケアを必要とするこども達

ハイリスクな状態のこども
□レ
解 説
身体的問題を抱えているこども
生命維持に必要な器機や処置(酸素、吸引など)が必要な子供は、医療機関とのコンタクトや、薬や処置の継続などの対応が必要となる。
知的/情緒的問題を抱えているこども
避難所など他の人たちとの共同生活となる場合は、刺激への反応性が高まることがある。多動・奇声などが奇異な言動と見なされる場合があり、周りとの協調性などに影響を与えることがある。
生活の自立に困難があるこども
自立移動や生活行動(食事、排泄、睡眠、着脱など)への継続的介助が必要となる。
被災時に特異な体験をしたこども
家族が死亡した、あるいは負傷している、家屋に閉じ込められた、死者をみた、怪我をした、家屋が全壊した、町が壊滅したなどの体験が、心的外傷となる/なっている可能性があり、対応が必要となる。
被災前から心理的問題を抱えていたこども
不登校、家庭環境に問題を抱えていたなど、通常でも環境への適応課題を抱えていることにより、傷つきやすさが増している場合がある。

3 誰といるか?

 おとな達は自宅の片付け、仕事等で昼間避難場所にいないことが生じます。日夜それぞれ誰が子ども達の面倒を見ているか、親と子ども達の対話があるかなどを確認する必要があります。

 こども側の視点で、子ども達の気持ちをくみ取ってもらえたり、聞いてもらえたりしているかを把握することで、関わりが必要なこども達を見いだすことができます。

4 どんな行動をとっているか?

 こども達の心の動きや体の状態は、こども達が被災後、それぞれ避難している場所で、どんな生活をしているか、どんな行動をとっているかを、おとなに聞くだけではなく、こども達一人ひとりを実際に見て判断する必要があります。気になる行動については、表2を参照してください。また、継続的な関わりが必要なこども達については、個人ファイルなどを作っておくと良いでしょう。

表2.被災後のこどもの言動/反応

気になるこどもの言動/反応
解 説
乳児
夜泣き、寝付きが悪い、少しの音にも反応する、表情が乏しくなる、【発熱、下痢、食欲低下、哺乳力低下】

幼児〜学童(低学年)
●赤ちゃん返りがみられる(退行: 指しゃぶり、夜尿、失禁、だっこの要求、親から離れない、など)
●食欲低下、落ち着きがない、無気力、無感動、無表情、集中力低下
●爪かみ、チック、頻尿、夜尿、自傷行為
●泣く、怒りやすい、聞き分けがなくなる、突然暴れるなど、“いつもの”こどもの行動とは異なった行動
●震災ごっこ、積み木崩し、暴力的遊びなど
●フラッシュバックのようなパニック行動

 生活の違いやおとなの反応などによって、こどもの生活行動などに反応が出る場合がある。おとなが落ち着いた時間を持ち、話しかけたり、スキンシップをとったりすることが大切になる。

 避難所などいつもとは異なった環境の中で、親・ 家族が子ども達の震災後の行動にとまどうこともあるが、このような状況下では通常見られる反応であり、生活への影響が見られていない場合には様子をみる。

 こどもの反応の意味を親・家族へ説明し、一緒に遊んだり、話をしたり、抱きしめて「大丈夫」と伝える方法を伝える。無理に親・家族から引き離すようなことはこどもにとっても、また親・家族にとっても不安となることがあるので注意する。

  どの項目でも頻回に生じたり、長く続いたりする場合には医療専門職が介入する必要が生ずることもあるので、注意深く経過を観察し、必要時には専門機関への依頼などの調整を行う。

学童期以降
● 食欲低下、落ち着きがない、無気力、無感動、無表情、集中力低下
● 爪かみ、チック、頻尿、夜尿、遺糞
● 睡眠障害、疲労感
● 感情失禁(泣きやすい、怒りやすい)聞き分けがなくなる、突然暴れるなど、“いつもの”こどもの行動とは異なった行動
● 幼児返り(指しゃぶり、幼児言葉)
● ケンカ、物を破壊する
● フラッシュバックのようなパニック行動
● ぜんそく発作、じんましん、円形脱毛、吃語、一過性自律神経失調徴候
● よい子すぎて気になる子、がんばりすぎる子、無口な子
 この年齢は、言葉による気持ちの表出やコミュニケーションがとれるようになるが、低学年では幼児と同様の反応がみられることもある。

 おとな達が忙しく働いている傍らで手伝えないこどもたちは、孤立した感覚をもったり、落ち着かない状況に陥ったりすることがある。こども達にできる仕事作りなど、家族の一員あるいは避難先での生活の中で、こども達も役割を見いだすことができるような参画の仕方を計画的に実施する。こども達が安心して、安全に果たせる仕事を見出すことが必要である。

 こどもは何も知らなくてもよいというのではなく、何がどのような状況になっているのか、おとな達がしていることを説明することも大切である。周りの状況についてある程度理解できるため、我慢したり迷惑をかけないように気を遣ったりして過剰適応するこども達もいる。

 どの項目でも、頻回に生じたり長く続いたりする場合には医療専門職が介入する必要性が生ずることもあるので、注意深く経過を観察し、必要時には専門機関への依頼など、調整をとる。

【避難しているこどもの生活環境の把握】

1 生活の場としての環境

 (1) 眠ることができているか?

 見知らぬ人や環境の中で過ごすことは、こども達にとってもストレスになります。元気でいるためには睡眠が充分にとれることが大切です。

 (2) トイレへいけるか?

 こども達にとってもプライバシーは大切な条件になります。特に避難所にいるこどもの場合、トイレに行くことができる年齢では羞恥心もありますので、他の人の目がある中でトイレを使うことに抵抗がある場合もあります。トイレに行かないように、食事を控えたり水分をとらなかったりするこどももいるということが報告されています。
 また、避難所ではトイレは戸外にあることが多く、一人の閉鎖空間で暗いこともあり、行くのを怖がるこども達もいます。

 (3) 周囲へ過剰に気遣いをしていないか?

 こどもは本来、泣いたり、大きな声でしゃべったりするものです。しかし、避難所の場合、多くの人たちがともに生活しているために、親子ともに周りに気遣いしながらの生活となります。ストレスを発散する場所や機会があるか確認することが必要です。

1 衛生状態

 換気、温度、湿度、採光、におい、音、手洗い、うがい、入浴などの衛生状態に注意しましょう。
 避難所など集団で生活する場所では、衛生状態の整備は大切な看護ケアの一つです。季節や施設の状態によって異なりますが、冬季の場合、特に注意したいのは換気と手洗いなどです。暖房が灯油などの場合、定期的な空気の入れ換えが必要となりますし、こども達の寝ている場所によっては、空気の流れが滞り換気の悪くなる場所が出てきます。また、手洗いとうがいは冬季の風邪の予防策としては効果的といわれている手段です。避難所は集団生活になりますので、特に水の確保が困難な状況において、マスクの使用や、手洗い、うがいを行える環境を作ることは大切です。

2 遊び場としての環境

 こども達は遊んでいるか、遊び場は確保されているか、遊びを監督する人はいるかなど、常にこども達に目を向けるようにしましょう。
 こども達は、遊びを通して感情の表出をしています。被災後は、そのときの体験を遊びとして繰り返すことによって、被災の辛かった体験を過去のものとして位置づけるような役割もあります。何かを崩したり壊したりするような遊びをすることもあります。状況が許すようなら無理に止めない方が良いのですが、周囲に危害が及ぶ可能性がある場合には、積み木やお絵かき、ぬいぐるみなど社会的に受け入れられる遊びとして表現できるように環境を整えて、遊びを通して表出をできるようにすることが大切です。
 一方で、無理に表出させることは控えなければなりません。年齢の大きなこどもになると体験を話したり共有したりすることを、会話だけでなく、日記や絵を描くことなどで昇華することがありますので、それができる物品をそろえておくことが必要です。
 親や家族が生活の復興を始めていると、幼児など年少児の場合は見ていてくれている人達が必要ですし、集団での遊びを考えることも必要です。学生のボランティア、保育士の参加も望まれます。

3 こどもに必要な生活物品の充足(特にこどもに必要なもの)

 乳児には、おむつとミルクが不可欠です。ミルクを作るためのお湯と消毒物品を確保するように援助しましょう。物流が回復するまで、離乳食やお尻拭きが不足しないように注意する必要があります。
 幼児や学童では、お絵かき用の紙やクレヨン・ 色鉛筆・ パステルなどがあると重宝です。他に、ブロック、積み木、ぬいぐるみなど感情表出用の遊具を用意します。

【引継ぎ】

 被災地でこども達に関わる看護職者が活動するのは、避難所や救護所のみではありません。新潟県中越地震では、倒壊しなかった自宅の駐車場などで避難生活をしている家族を訪問する場合もありました。時にはこども達の様子まで、目が行き届かなくなる状況において、こども達がどのような場所で避難しているのかを「こども達の居場所マップ」にすることは、交替で支援するために大切です。

 特に気になる言動のあるこどものリストは、短期間では理解し難い問題を複数の看護職者で共通理解し、こどもが抱える不安を緩和したり、こころのケアチームなどに紹介したりする手立てにもなります。

 入院するほどではなくても、体調を崩したこども達は、おとな達が生活の復興に励まなければならない間、避難所でひとり療養しなければならないことがあります。心細い思いのこども達に対して、親や家族に代わって、気遣ったり話しかけたりすることが必要です。体調の悪いこども達についての引継ぎノートの作成が望まれます。


第5部へ