〜 Mass-gathering medicine 〜
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4.トリアージのケーススタディ災害時におけるトリアージを机上シミュレーションによって実践してみます。
本日午後3時20分、某県某市サッカー場において興奮した観客が将棋倒しとなる事故が発生しました。あなたは消防本部の要請により、事故現場に出動することになりました。負傷者はおよそ100人、かなりの数の重症者も発生しているようです。現場には救急車は2台しか到着していません。現場では消防当局によってトリアージポストが設置され、救出された、或いは自力で脱出してきた負傷者が集まってきています。現場救護所が設置され医師2名が救護にあたっています。あなたはトリアージポストでのトリアージを任されることになりました。次々にやってくる負傷者を、緑、黄、赤、黒のカテゴリーにトリアージしてください。
↑トリアージは緑になります。多少出血が持続していても、バイタルサインが安定していますので緊急の治療は必要ないでしょう。この症例の診断は頭部挫創のみでした。
↑この症例は赤のトリアージとなるでしょう。腹部の実質臓器損傷が疑われます。バイタルサインも不安定で緊急に搬送が必要です。病院での診断は腎損傷、脾臓損傷でした。
↑本症例のトリアージは緑になります。上腕骨の骨折は明らかですが、治療が遅れても全身状態を悪化させるとは考えにくく、災害時においては保留群となります。
↑症例のトリアージは黄色になります。開放性の大腿骨骨折であり、現場では感染防止、出血性ショックに注意が必要です。しかし止血ができ、バイタルサインの低下がなければ数時間の猶予はあるでしょう。多量の出血が持続するときには救護所において緊縛止血を行った後、固定処置をします。
↑本症例のトリアージは緑になります。胸骨骨折、肋骨骨折、外傷性窒息等を考慮しなくてはいけませんが、現在は、バイタルサインは安定しており緊急の治療は必要ないと判断されます。
↑本症例のトリアージは黒になります。かなり長時間経過した心肺停止状態であり、蘇生は望めないでしょう。受傷機転、眼瞼結膜欝血斑から外傷性窒息によるものと思われます。現場ではこうした症例のために、人目につかない安置場所確保も重要となってきます。黒とトリアージしましたが、災害の規模、現場の人手等によっては心肺蘇生を試みることもあるでしょう。
↑倒壊した建造物等により圧迫された後、血液の再灌流時に生じるクラッシュ症候群の症例です。クラッシュ症候群では突然の心停止を来す高カリウム血症の補正、筋膜切開、血液透析等が必要となる場合があり、高次医療機関への早期搬送が不可欠です。トリアージは赤になります。
↑バイタルサインは安定しており、緊急の治療は必要ない状態なのでトリアージは緑です。しかし、興奮状態が他の傷病者の不安を増強する可能性もあり、搬送手段にゆとりのある場合は黄色になり得ます。
↑頭蓋内病変が疑われますが、バイタルサインは安定しており黄色のトリアージでよいでしょう。しかし、急性硬膜外血腫では意識清明期が認められることがあり、本症例も救護所、搬送中の意識レベルの変化に十分な注意が必要です。意識悪化時には再トリアージによって赤にすべきでしょう。最終診断は急性硬膜外血腫でした。
↑本症例のトリアージは赤です。意識障害の上、口腔内は出血があり気道が障害されています。できる限り、救護所での気管挿菅が必要でしょう。気道確保は止血とともに早急に必要な処置となります。
↑本症例のトリアージは黄色になります。頸髄損傷が疑われますが、呼吸循環動態が安定しており短時間なら待機可能です。重症ですが今回のような災害時においては黄色にトリアージされます。
以上でトリアージのケーススタディは終了です。もちろん、トリアージの正解は一つではありません。傷病者の数と重症度、提供できる医療資源によっても変わってくるでしょう。しかし、どのような場面でも最大多数の傷病者に最善を尽くすという原則を忘れずにトリアージを行ってください。次へ