〜 Mass-gathering medicine 〜
ビデオテキストブック
6.化学物質の除染
以下に除染の基本を示す。一般に非汚染者対汚染者の比率は約5:1と言われている。汚染者に対してすぐに除染をすることが重要である。脱衣は除染に非常に有効であり、90%は脱衣をすることによって除染される。また、水洗いは大量汚染における非常に有用な除染手段とされている。
除染作業中は防護服を着ているために、除染者の動きに制限があるが、常に被災者のバイタルサイン変化に留意することが必要である。また、脱衣時には可能な限りプライバシー保護も必要である。
ここに示したのは、フランスの院外救急医療組織SAMU(サミュ)の除染テントの備轍図である。
図のように第一のゾーン、第二のゾーン、第三のゾーンと三つのゾーンからなる。第一のゾーンは脱衣、第二のゾーンは除染、第三のゾーンは着衣のためのゾーンである。
第一のゾーンでは、汚染されている被災者の衣服の脱衣を行う。歩行不能な被災者はストレッチャーで移し替えて、次の除染ゾーンヘと運ぶ。
脱衣のための第一のゾーンでは、明らかに液体の汚染がある場合にはプーラーズアース、それがなければ、小麦粉等を代用して拭い取る。
また、頭をくぐらせなければいけない衣服は、基本的には、はさみ等で切って衣服を取る。また身体についている器具(眼鏡、補聴器、かつら等)も全て取り、装着されているコンタクトレンズも外す。これらの衣類や器具は防水加工されたプラスチックの袋に入れ、その袋の口は堅く閉じて保管する。
写真は第一のゾーン内のストレッチャーにおける脱衣過程を示している。このように、ストレッチャーの上にあらかじめビニールシートを敷いておくと、切った後の衣服をまとめるのに便利である。
写真は第一のゾーンにおいて必要な備品類である。ビニール等でコーティングされた短めの針金は、衣類等をまとめたビニール袋の口を縛るのに有用である。また、このように大きめのゴミ袋を二つ用意する必要がある。
第二のゾーンにおいて被災者の除染を行う。
第二のゾーンにおける除染のポイントを示す。自分でシャワーを浴びることのできる被災者は、約10分間丁寧にさ浴びてもらう。シャワーの水として、大量の温水を1人当たり約5リットル使用する。
その際、洗眼を忘れないように指示する。開放創がある場合には、その部分から除染を開始する。
顔や髪を温水で洗い、濯ぎ、次に首から下をスポンジで優しく洗う。このとき強くこすらないように注意する。このシステムの除染テントにおける除染可能な人数は、ひとつの目安として、担架搬送者は一時間に4人、歩行可能な傷病者は一時間あたり10人である。
写真は第二のゾーンである。左上の写真の奥は第一のゾーン、手前側が第二のゾーンでこのようにストレッチャーを二つ置き、傷病者を移し変える。
下の写真は第二のゾーンの中のシャワールームである。向かって左側の部分が歩行可能な傷病者に対するシャワールーム、右側がストレッチャーを置いて、シャワーによる除染を行う場所である。
水的除染を行う際に水を使用するのか、0.5%の次亜塩素酸ナトリウム液を使用するのかということについては、議論のあるところだが、日本中毒情報センターセミナー資料によれば「神経剤、びらん剤は0.5%次亜塩素酸ナトリウム液、または大量の水、それ以外は大量の水で除染する」という記載があり、基本的には大量の水でよいと思われる。除染をする時間については一般的に推奨されているのは10分間とされている。また、使用する水の温度は、35度前後の温水が使用されることが多い。
第三のゾーンにおいて、被災者の着衣を行う。
写真に示したように着衣のための備品を用意しておく。
除染終了後であることが分かるように各被災者に印を付け、リストを作成する必要がある。また、換気が良好でかつ遠く離れた場所に、衣服の入った袋を口を堅く閉じた状態で保管することも重要である。併せて必要な治療も開始する。最終的に汚染が除去されたかどうかを検知器で確認することが望ましい。
写真に示したようなフード型のパーソナルプライバシーキットを頭からかぶることにより、脱衣あるいは着衣時のプライバシーの保護が容易になる。
全ての除染過程が終了した後、病院内で通常治療を開始する。基本的予防法に加え、患者に対して手袋を着用し、また患者の院内での移動を制限し、補助的な検査をできるだけ制限する。また、解毒剤や特殊治療を要する場合には、それぞれ院内のプロトコールに従って対応していく。
次へ